
「恋は運命のように訪れ、努力のように育まれる。」 — アンリ・ド・レニエ
出会いの場所、ヴェルニー公園
青空の下、ハーレー・スポーツグライドのエンジンが低く唸る。
「ヴェルニー公園か。海沿いの風は、なかなか気持ちよさそうだな。」
スポーツグライドが駐車場に滑り込むと、すでにそこには赤い車体が待っていた。
「ふふん、やっぱり来てたな。」
赤いホンダ・ゴールドウィング。そのエンジンが静かに共鳴する。

鉄の馬と金の翼の機械仕掛けの語らい
「遅かったじゃない。」
「いやいや、お前が早すぎるんだろ。」
ゴールドウィングのタンクが微かに震える。
「相変わらずいい音させてるね、スポーツグライド。」
「そっちこそ、相変わらず優雅な走りだな。」
二台のバイクは、それぞれのエンジンを軽く鳴らし合う。

生まれるまでの時間

「ねえ、君は2021年生まれなんでしょう?」
「そうだ。コロナ禍の影響で、俺が生まれるまでずいぶん待たされた。」
「私は2018年生まれよ。久々のモデルチェンジで製造台数が不足して、しばらく出荷が遅れたわ。」
「なるほどな。お互い、なかなかオーナーの元にたどり着けなかったわけだ。」
ゴールドウィングのエンジンが静かに震える。

運命の巡り合わせ
「でも、そのおかげで今こうして出会えたのよ。」
「……俺たちバイクにも運命があるってか?」
「そんなところね。」
スポーツグライドのタンクが温かくなる。
「お前と話すのは悪くないな。」
「私もよ。」
ヴェルニー公園のバラ園の風が、二台のバイクを優しく包んでいた。
エンジン音だけが、ゆっくりと響き続ける。
羨望と不安
ゴールドウィングが静かに口を開く。
「私は……あなたが羨ましい」
「何がだ?」
スポーツグライドが静かに問う。
「あなたは、オーナーと話せるでしょう? ちゃんと気持ちを伝えられるのよ。」
スポーツグライドのエンジンが小さく唸る。
「……確かにな。でも、それがすべてじゃない。」
ゴールドウィングのエンジンが微かに震えた。
「私はいつもリサのことが心配なの。」
「……どういうことだ?」
「彼女、最近ずっと体調が悪いの。でも、それを誰にも言おうとしないのよ。」
スポーツグライドは、一瞬だけ静かになった。
「リサが……病気なのか?」
「ええ……走っているときは元気そうに見えるけれど、降りると少し辛そうなの。」

ヴェルニー公園の静かな風の中で、二台のバイクはしばし無言になった。
「お前……大丈夫か?」
「……私はね、彼女を乗せてどこまでも走れるわ。でも、それが彼女にとって負担になっていないか、いつも不安なの。」
「……。」
ゴールドウィングのエンジンが静かに震える。
「ねえ、スポーツグライド……私は彼女を支えられるのかしら?」
「お前は……リサの”金の翼”なんだろう?彼女が望むならどこまでも遠くに天高く連れて行ってやればいい」
「……そうね。」
遠くで、リサと主人がゆっくりとバイクに戻ってくるのが見えた。
「そろそろ行かなくちゃ。」
「また会えるか?」
「もちろんよ。」

ゴールドウィングは優雅にエンジンを鳴らし、ゆっくりとヴェルニー公園を後にした。
スポーツグライドは、その後ろ姿を見送りながら、静かに祈り呟いた。
「どうか、リサが長く走り続けられますように——。」
