横浜ベイブリッジを駆けたあの日から、季節は巡り 秋 になった。
紅葉が深まり、空気が澄んでいくこの季節は、ツーリングには最適だ。
「さて、今日はどこへ行く?」
スポーツグライドのエンジンをかけながら、俺は呟いた。
目的地は 昇仙峡。
秋の渓谷を駆け抜け、壮大な自然の中で心をリセットするのも悪くない。
エンジンを響かせ、甲府へ向けて走り出した。
だが、その途中で 思いがけない再会 が待っていた——。

昇仙峡の入り口での異変
昇仙峡の入り口に差し掛かると、ふと 数人の男たちの声 が耳に入った。
見ると、数名の大学生風の男たちが 1人のライダーを取り囲んでいる。
「なあ、そんな怖い顔すんなって。」
「いいじゃん、どこまで行くの?」
そんな軽薄な声が聞こえた瞬間、俺は そのライダーが誰かを理解した。
— 赤いゴールドウィング。ボーイッシュなシルエット。ショートカットの髪。

間違いない。
ヴェルニー公園、横浜ベイブリッジ——
旅の中で何度か交差した 彼女 だった。
彼女は相変わらず無口で、鋭い視線で男たちを牽制している。
だが、男たちは引く気配がない。
「おい、そこのお前ら。」
俺はアクセルを軽く吹かせ、スポーツグライドを停めた。
低く響くエンジン音に、男たちが一瞬振り向く。
「そのバイク、俺の知り合いなんだが?」
静かな声で言うと、男たちは 戸惑ったように顔を見合わせた。
「なんだよ、関係ねぇだろ?」
「そういうわけにはいかねぇな。」
俺はヘルメットのシールドを上げ、冷静な視線で彼らを見た。
「この人が嫌がってんの、見てわかんねぇのか?」

「チッ…」
男たちは不機嫌そうに舌打ちをしながら、渋々離れていく。
そして、彼女と俺は再び向き合った。
沈黙の感謝と、秋の紅葉
彼女は相変わらず 何も言わない。
ただ、一瞬だけ視線が俺に向けられる。
その瞳には、わずかに 感謝の色 が滲んでいた。
「まったく、相変わらずトラブルメーカーだな。」
俺は苦笑しながら、スポーツグライドのハンドルを握る。
すると、彼女はふいに近づき、俺のジャケットの襟元を軽く引き
そのままハーレーの後部座席に乗り込んだ。
「…?」
次の瞬間、かすかに聞こえた。
「…お兄さん、やっぱり…いい匂い…。」
そして、 ふわりと背中に彼女の腕が回る。
革のジャケット越しに伝わる温もり。
またもや豊満な胸が、俺の背中に当たる。

「おい、またそれかよ。」
俺が呆れたように言うと、彼女は くすっと笑うと、そのままゴールドウィングのエンジンをかける。
低く、力強いエンジン音が秋空に響いた。水平対向六気筒のエンジン音はボーイッシュな彼女によく似合う。
「……。」
彼女は一言も発さず、俺の横を通り過ぎる。
そして、昇仙峡の奥へと消えていった。
「まったく、掴みどころのない奴だな。」
俺は肩をすくめ、エンジンをかける。
「でも——そんな出会いが、旅を面白くするんだよな。」
スポーツグライドが軽く唸る。
まるで、次の再会を予感しているかのように——。
昇仙峡の秋、紅葉と雄大な自然

トラブルを解消し、改めて昇仙峡を走る。
視界に広がるのは、燃えるような紅葉と奇岩が織りなす絶景。
高さ180メートルの 覚円峰 が聳え立ち、その周囲を流れる渓谷はまるで別世界。
バイクを停め、しばしその壮大な景色に見惚れる。
「この時期の昇仙峡は、本当に美しいな。」
「まぁ、お前のツーリング先のチョイスは悪くないな。」
スポーツグライドが満足そうにエンジンを鳴らす。
仙娥滝(せんがたき)にも立ち寄った。
水しぶきが舞い、ひんやりとした空気が心地よい。
滝の近くには ロープウェイ乗り場 があり、山頂まで一気に登ることができる。
ロープウェイからの眺めは まさに絶景。
眼下には紅葉に彩られた渓谷、遠くには富士山の姿が霞んで見える。
旅の締めくくり、近隣スポット巡り

昇仙峡を満喫した後、影絵の森美術館 へ向かう。
藤城清治氏の幻想的な影絵が並び、その独特な世界観に引き込まれる。
さらに、昇仙峡ワイン王国 へ立ち寄り、山梨の地ワインを試飲。
「これは…意外とうまいな。」
「気に入ったのがあったら、買って帰れよ。」
一本のワインを購入し、今日の旅の思い出とする。
最後に寄ったのは、水晶宝石博物館。
昇仙峡は水晶の産地としても有名で、館内には世界中の鉱石が展示されていた。
「こういうのも、旅の楽しみの一つだな。」
エンジンを鳴らし、次の旅へ
日も暮れ、夕焼けが昇仙峡の紅葉をさらに赤く染める。
「さあ、次はどこへ行こうか?」
エンジンをかけると、スポーツグライドが低く唸る。
まるで、次の冒険を期待しているかのように——。