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ガラスの森美術館ツーリング—箱根の旅 ガラスに映る鉄の馬と金の翼

第五章 鉄の馬と金の翼

「恋をしていると、世界がまったく違って見える。」 — フリードリヒ・ニーチェ


「ねえ、お兄さん。箱根に行かない?」

そんなメッセージが届いたのは、俺が次のツーリングの計画を立てていた時だった。
送り主は——赤いホンダ・ゴールドウィングに乗るリサ

「箱根? なんでまた。」
「行きたい場所があるの。ガラスの森。」
「箱根ガラスの森美術館か?」
「うん。一緒に行こ?」

俺は少し考えた後、スマホの画面に返信を打った。

「いいぜ。どこで落ち合う?」

こうして、俺たちは箱根に向かうことになった——。


箱根のワインディングロードを駆ける

待ち合わせ場所は小田原駅近くのカフェ。
先に到着した俺がコーヒーを飲んでいると、特徴的なエンジン音が響いてきた。

水平対向六気筒の重厚なサウンド——間違いなくリサのゴールドウィングだ。

「お待たせ。」
ヘルメットを外したリサが、軽く微笑む。
ショートカットの髪が風に揺れ、その顔にはいつものクールな表情。

「珍しいな。お前からツーリング誘うなんて。」
「たまには、ね。」

リサはさらっと答えるが、その瞳の奥には何か期待するような光があった。

「じゃあ、行くか。」
「うん。」

俺たちはバイクに跨り、エンジンを響かせながら出発した。

箱根新道を駆け上がり、ワインディングロードを走る。
道の両側には深い緑が広がり、ところどころに紅葉が色づいていた。

「気持ちいいね。」
リサが隣で呟く。
「そうだな。箱根の道は、やっぱりいい。」

やがて俺たちは、目的地 「箱根ガラスの森美術館」 に到着した。


ガラスの森で映る二人

箱根ガラスの森美術館は、美しいヴェネツィアン・グラスが展示された幻想的な空間だった。
太陽の光を受けたガラス細工がキラキラと輝き、まるで夢の世界に迷い込んだような気分になる。

「綺麗……。」
リサは珍しく感嘆の声を漏らした。

「お前がこんな場所に興味あるとはな。」
「意外?」
「ちょっとな。」

リサはクスッと笑い、展示をじっくりと見て回る。

「……ガラスって、いいよね。」
「ん?」
「形があって、でも繊細で……ちょっとした衝撃で壊れちゃう。」

その言葉に、俺はふと彼女の横顔を見た。
リサは静かに、透明なガラスの器を指先でなぞっている。

「……お前も、ガラスみたいなもんか?」
「え?」
「いつもクールぶってるけど、実はすぐ壊れそうな感じするぞ。」

彼女は一瞬驚いたように俺を見たが、すぐに照れ隠しのようにふいっと目をそらした。

「……そうかもね。」

その言葉の奥に、何か深いものを感じた。


旅はまだ続く

ガラス細工の体験コーナーで、それぞれグラスを作ることにした。
不器用ながらも形になった自分の作品を見て、リサが珍しく笑顔を見せる。

「上手じゃん、お兄さん。」
「お前の方が上手いだろ。」
「まあね。」

俺たちはできたばかりのグラスを手に取り、光にかざした。
そこに映るのは、ガラスの透明な輝きと——ふたりの姿。

「……次はどこ行く?」
「お前が決めろよ。たまには。」

リサは少し考えた後、にやっと笑う。

「じゃあ、大涌谷でも行こっか。」

箱根の旅はまだ、終わらない。

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