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川越ツーリング 〜七不思議が囁く町〜

第三章 バイク~そして伝説へ~



「この世には、理屈では説明できないことがある。それを知るのは、旅人だけだ。」

「おい、今日はどこを走る?」

エンジンをかけると、相棒のハーレーが低く唸った。

埼玉県・川越だ。」

「川越?また随分と渋い場所を選んだな。」

「”小江戸”って呼ばれるくらい、昔の街並みが残ってるからな。
それに、ここには”川越七不思議“ってのがあるんだよ。」

「ほぉ…また”不思議巡り”か?」

「フッ…まぁ、せっかくならツーリングついでに、”奇妙なこと”にも出会いたいじゃないか。」

「フッ…いいぜ。どうせお前と走ってりゃ、何か起こるだろ。」

俺はヘルメットを被り、アクセルをひねった。
江戸の情緒と摩訶不思議な伝説が残る町、川越へ向かう。


小江戸の道、時を超えた町並み

都内を抜け、関越道を北上。
川越ICで降り、街の中心部へ向かう。

「おい、ここはまた雰囲気が違うな。」

「だろ?江戸時代にタイムスリップしたみたいだろ。」

川越は”小江戸”と呼ばれ、今も古い蔵造りの建物が残る町。
商店が立ち並び、和装の観光客が歩いている姿が目に入る。

「……バイクで来ると、ちょっと浮くな。」

「まぁな。でも、ハーレーの存在感なら、江戸の町にも負けないさ。」

川越のシンボル時の鐘を眺めながら、俺はバイクを停めた。

「さて、まずはどこを回る?」

「……”七不思議”ってやつを探しに行くか?」

「おいおい、また奇妙なことに首を突っ込むのか?」

「不思議なものには、出会うための”タイミング”ってのがあるんだよ。」


川越城と哀しき伝説

川越城の城下町には、古くから語り継がれる悲しき伝説がある。

むかし、川越の城主に狩りをこよなく愛する殿がいた。彼は毎日のように鷹狩りに出かけ、供の侍たちを従えて森や田畑を駆け巡った。ある日、殿の供をしていた若き侍が、小川のほとりで水を汲む美しい娘と出会った。

娘の名は、およね。村一番の働き者で、清らかな心を持つ娘だった。若侍はその美しさと気立ての良さに惹かれ、やがて二人は結ばれた。しかし、城へ迎えられたおよねを待っていたのは、姑の厳しい仕打ちだった。

「身分の低い娘が、侍の妻になどなれるものか!」

姑はおよねを厳しく叱りつけ、些細なことでも咎めた。日に日に冷たくなっていく夫の態度に、およねの心は次第に沈んでいった。そして、ある日、姑の命により、およねは実家へ帰されてしまった。

—あの日、あなたと出会ったあの小川で、もう一度会えたら—

およねは夫が再び通ることを願い、小川のほとりで待ち続けた。しかし、待てど暮らせど、彼は現れなかった。

夜風が吹く静かな川辺で、彼女は涙を流し続けた。

やがて、およねは運命を嘆き、その小川の深い淵へと身を投げた。

それからというもの、その川では夜な夜な女のすすり泣く声が聞こえるようになったという。村人たちはいつしか、その川を**「よな川」**と呼ぶようになった。

「およね」が由来とも、夜ごとに響く泣き声から来たとも言われる。


よな川のほとりで

「……ここが、よな川か。」

バイクを降り、川のほとりに立つ。

夜風が吹き、木々の葉を揺らしていく。水面は静かに月明かりを映していた。

「本当に泣き声が聞こえるのか?」

相棒が低く呟く。

「さあな。ただ、昔の人がそう言ったってだけだ。でも、何かを待ち続ける気持ちは、分からなくもない。」

風が一層強く吹き、冷たい空気が肌を撫でる。

「……待っていたんだな。たった一度でも、愛した人に会いたくて。」

エンジンをかけると、相棒がぽつりと呟いた。

「……おい、寂しくないのか?」

「何が?」

「誰かを想って待つってことさ。」

俺は夜空を見上げ、ゆっくりと答えた。

「俺は走るだけさ。もし、誰かが待っているのなら——その時は、また会えるだろ。」

「……フッ、そうかよ。」

相棒は低くエンジンを鳴らした。

俺はアクセルをひねり、夜の道へと走り出した。

夜風に溶けるように、遠くで微かな泣き声が聞こえた気がした。


夜の菓子屋横丁、奇妙な影

次に向かったのは、菓子屋横丁
昔ながらの駄菓子屋が並ぶ通りだ。

「おい、ここはいい匂いがするな。」

「だろ?せっかくだし、ちょっと休憩するか。」

俺はふと目についた駄菓子屋に入り、店先でラムネを開けた。

その時――

「……あれ?」

通りを歩く人々の影が、妙に”揺れて”見えた。

「おい、なんか変じゃねぇか?」

「……影が勝手に動いてる?」

人の動きとは違うリズムで、影だけが”ゆらり”と揺れる。
いや、それどころか――

影が、ゆっくりとこちらを向いた。

「おいおい……。」

俺はラムネの瓶を持ったまま、立ち尽くした。

しかし次の瞬間、風が吹き抜けると、影は元に戻っていた。

「……気のせいか?」

「いや、”気のせい”ってことにしとくのが正解だな。」

ラムネを一気に飲み干し、俺はバイクへと戻る。


帰路、そしてまた来る予感

「おい、結局”七不思議”は、七つ全部見てねぇぞ?」

「それでいいんだよ。不思議ってのは、全部知る必要はない。
“次に来た時にまた出会うもの”があるのさ。」

「フッ…まぁ、またいつか”川越の謎”を追いかけるか?」

「さぁな。でも、この町には”まだ何か”が隠れてる気がするよ。」

エンジンをかけ、俺たちは再び走り出す。

風が吹く限り、俺たちの旅は続く――。
そして、川越の七不思議は、まだ俺たちを待っている。

著者プロフィール

ようこそ、俺と相棒の奇妙な旅へ
エンジンをかければ、旅が始まる。
でも、俺の相棒はただのハーレーじゃない。
しゃべる。しかも、めちゃくちゃよくしゃべる。

「今日はどこへ行く?」
「その前に、俺のオイル交換はどうなった?」
「お前、また無計画に走ろうとしてるだろ?」

…うるさいけど、憎めない。
こいつと旅をしていると、ただの道も、ただの景色も、いつもとは違って見える。
自由気ままな俺と、口うるさいハーレーの奇妙な旅。
絶景、古き良き町並み、気まぐれな寄り道、そして時々起こるちょっと不思議な出来事。

📍 目的地はなし。行きたい場所に行くだけ。
🏍 二人(?)で風を切る。
🎭 笑えて、考えさせられる、そんな旅の記録。

「さあ、今日はどこへ行く?」
「お前がちゃんと計画を立ててるならな。」

さて、どうなることやら。

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