
「道を進む者は、時に過去の声を聞く。それは、未来への導きとなる。」
「おい、今日はどこへ行く?」
エンジンをかけると、相棒のハーレーが低く唸る。
「群馬・上毛三山パノラマラインだ。」
「フッ…ついに”北の道”へ進むのか?」
「名古屋城のシャチホコが言ってた”導き”を確かめるためにな。」
「で、何か特別なものがあるのか?」
「この道は、群馬の誇る絶景ルート。赤城山、榛名山、妙義山という三つの名峰を巡るパノラマロードだ。」
「ほぉ…つまり、景色も走りも最高ってことか。」
「そういうことだ。」
相棒は軽くエンジンを吹かした。
「ただし、この道には”歴史の影”も残ってるらしいがな。」
「……どういう意味だ?」
俺はそれ以上は答えず、アクセルをひねった。
過去と未来が交差する道へと、俺たちは走り出した。
上毛三山パノラマライン、天空の絶景

関越道を北上し、群馬の山々が近づいてくる。
インターを降り、一般道を抜けると、ついに上毛三山パノラマラインの入り口が現れた。
「おい…すげぇ景色だな。」
「だろ?」
前方に広がるのは、壮大な三山の姿。
道は山の稜線をなぞるように続き、アップダウンとワインディングが絶妙なリズムを生む。
赤城山エリアでは、開けた道が空へと続くかのように伸びている。
空と大地の境界が曖昧になり、まるで雲の上を走っているような錯覚に陥る。
「こりゃ…気持ちいいなんてもんじゃねぇな。」
「これが、群馬が誇るパノラマロードさ。」
次に現れるのは榛名山エリア。
ここは湖の周囲を走るルートで、穏やかなカーブと水面に映る山々が美しい。
「おい、なんか妙に静かじゃねぇか?」
「ここからだ。歴史の影ってのは。」
相棒のエンジン音が、いつもより低く響く気がした。
平家の亡霊、伝説の地

榛名山には、かつて平家の落人が隠れ住んでいたという伝説がある。
源氏に敗れた平家の者たちは、この山深い場所でひっそりと暮らしていたという。
「つまり、ここには”歴史の亡霊”がいるってことか?」
「まぁな。でも、伝説ってのは実際に体験しないと分からないもんだろ?」
そう言って笑おうとした瞬間――
「……おぬし……」
「……!」
俺はハンドルを握る手に力を込める。
「……今、誰か呼んだか?」
「……おい、ここは俺しかいねぇぞ。」
相棒も、何かを感じ取ったようだった。
湖のほとりに、白い霧がかかる。
その霧の中に、誰かが立っていた。
「……誰だ?」
鎧をまとい、静かにこちらを見つめる影。
その姿は、明らかに”この時代のもの”ではなかった。
「平家の……武士?」
「……おぬし……西へ向かえ……」
その言葉を残し、影は霧とともに消えていった。
俺はしばらく動けなかった。
「……なんだったんだ、今のは?」
「……分からねぇ。でも、西へ向かえ…か。」
「”西”ってのは、どこを指してる?」
俺はふと、名古屋城のシャチホコの言葉を思い出した。
「仙石原のススキを見るがよい。」
「……まさか、箱根の仙石原か?」
「フッ…なんか話が繋がってきたな。」
俺はヘルメットを被り直し、エンジンを吹かした。
「……西へ行くぞ。」
仙石原へ、導かれる旅

榛名山を下り、俺たちは西へと進路を取る。
目的地は神奈川県・仙石原のススキ草原。
「おい、なんで平家の亡霊が仙石原を指示したんだ?」
「さぁな。でも、あそこは”霧の里”とも呼ばれる場所だ。
何か、この旅に関係するものがあるのかもしれない。」
俺たちは再びアクセルをひねる。
名古屋のシャチホコが示した道、平家の亡霊が告げた導き。
旅はただの移動じゃない。
それは、時に”過去の声”を聞くことでもある。
風が吹く限り、俺たちの旅は続く――。