
「木を植える者は、遠き未来を想う。」
— 昔のことわざ
「ほぉ…なんか深いな。」
エンジンをかけながら、俺はこのことわざを思い出していた。
旅も、人生も、今だけを見て走るわけじゃない。
遠い未来を想い、少しずつ積み重ねることで、道は続いていく。
「なぁ、今日はどこ行く?」
相棒のハーレーが低く唸るように問いかける。
「三渓園だ。」
「おいおい、また渋いチョイスだな。なんだその名前?」
「横浜にある日本庭園だ。デカい敷地に、京都や奈良から移築された歴史的な建物が点在してる。」
「おいおい、まさか和の心を学びに行く気か?」
「まぁ、たまには静かな場所で未来を想うのも悪くないだろ?」
「フッ…そいつは面白ぇ。付き合ってやるぜ。」
軽くアクセルを煽る。
今日も旅の始まりだ。
横浜へ向かう道

都内を抜け、首都高湾岸線へ。
朝の澄んだ空気を切り裂くように、相棒のエンジンが響く。
「おい、都会の道も悪くねぇな。」
「横浜は港町だから、海沿いの道も気持ちいいんだよ。」
「潮風には勘弁してほしいがな。」
ベイブリッジを渡りながら、横浜のビル群が見えてくる。
目の前には、青い海と近代的な建物。
横浜という街は、過去と未来が交差する場所だ。
「この街、けっこうオシャレじゃねぇか?」
「だろ?三渓園も、この都会の中にあるんだぜ。」
「そんな都会に日本庭園?ちょっと楽しみになってきたぜ。」
首都高を降り、一般道を走る。
三渓園が近づくにつれ、街の喧騒は少しずつ静かになっていく。
三渓園の静寂

バイクを停め、門をくぐると、そこはまるで別世界だった。
都会のすぐそばとは思えないほど、静かで落ち着いた空間が広がる。
庭園の木々は季節ごとに表情を変え、池には鯉がゆったりと泳いでいる。
「おい、ここ…ヤバいな。」
「静かすぎて驚いたか?」
「いや…ただの公園かと思ってたが、これはガチの庭園だな。」
庭を歩きながら、京都から移築された三重塔や、歴史ある茶室を眺める。
どの建物も、何十年、何百年という時を経て、今ここに立っている。
「なぁ、さっきのお前の言葉、ちょっと分かった気がするぜ。」
「どの言葉だ?」
「『未来を想う』ってやつだよ。この庭、100年以上前に造られたんだろ?」
「そうだな。横浜の実業家・原三渓が、後世に残るものを作ろうと考えてな。」
「そんで、こうやって今でも人が訪れてるってわけか。」
相棒はしばらく黙っていたが、やがて低く唸るように言った。
「俺たちの旅も、未来に何か残るのかね?」
「さぁな。でも、こうして走り続けることで、何かが刻まれるんじゃないか?」
「…フッ、まぁ悪くねぇ考えだな。」
俺たちはしばらく庭を歩き、しっかりとその空気を味わった。
帰路と、未来を想う旅

「さて、そろそろ行くか。」
「おう。でもな、ちょっとゆっくり流してくれよ。さっきの庭の余韻が抜けねぇ。」
「お前がそんなこと言うとはな。」
「たまには俺も、静かに走りたくなるんだよ。」
バイクに跨り、エンジンをかける。
庭園の静けさとは対照的に、相棒の鼓動は力強く響く。
「なぁ、次はどこへ行く?」
「そうだな…今度は横須賀あたりで海を眺めるのもいいかもな。」
「ほぉ…未来を想う旅から、海を眺める旅か。悪くねぇな。」
アクセルをひねり、俺たちは再び道へ。
風を切りながら、俺たちの旅は続いていく。
未来を想いながら、俺たちは走り続ける。